日本の皆さんには〈シティ・パースペクティブ(東京編)〉を先にご覧頂くことをお勧めします。ここには地球環境についての簡単なイントロダクションと、東京におけるデザインの可能性についてまとめられています。本コンペティションはこの内容を踏まえて頂いたうえで、みなさんのアイディアを募集する形式になります。
また、より詳しい情報が必要な場合には、別途用意されている〈グローバル・ブリーフ〉をご覧ください。こちらには地球環境と経済、デザインの関係性がさらに深いレベルで説明されています。加えて各都市の事 例紹介、参照資料なども含まれています。
CURRENT SITUATION
巨大都市、大量消費
東京は人口1400万人の世界最大の人口を誇る巨大都市です。中心部である東京23区の面積は627km²、人口は900万人を超え、ニューヨークやパリに匹敵するほどの過密地域となっています。
とりわけ東京23区内では、大量の消費と廃棄物を生み出しています。年間約300万トンもの都市廃棄物が排出さ れており、これは東京ドーム約7.4個分に相当します。そのうち約70%が家庭から、残りの30%が事業系の廃棄物となっています。これは毎日、一人当たり約1kgの廃棄物を出している計算になります。また、東京の固形廃棄物の量は、1989年に490万トンでピークに達しましたが、人々の意識の高まりと政府の取り組みにより、現在では約300万トンまで減少しています。しかし、廃棄物に関して私たちが取り組まなければならないことは、まだまだあります。
CURRENT SITUATION
タイムリミットは50年?
東京には稼働している埋立地がひとつしかありません。
そこでの埋立量が最も多いのが、焼却された後に残るカス(焼却残渣)です。次に多いのがスラグと呼ばれる下水汚泥等の都市廃棄物。さらに物理的に焼却できない金属やガラスといった不燃性廃棄物が続きます。
しかもこの埋立地は残り50年程度で処理能力の限界に達すると言われています。したがって私たちは、廃棄の前段階について考える必要があり、循環型経済へ転換していくことが必要です。
Challenges in tokyo
輸入されるフードウェイスト
日本には食事の際、農作物や農家の人に感謝の気持ちを表して、「いただきます」「ごちそうさま」と口にする文化があります。食卓に出された食事を残さずに食べることが、古くからの礼儀や美徳とされてきました。
しかし世界では、まだ食べられる食料が年間13億トンが 廃棄されているのが現実です。東京だけでもレストランなどからの事業系食品廃棄物が年間98万トン、家庭からも99万トンが廃棄されています。
日本全国の食料自給率は約66%、しかし東京に限っては3%と低い数字になっています。東京でのフードウェイストは、いわば「食品を海外から輸入/都外から輸送して、食べずに捨てる」という矛盾する構造をあらわしています。
衣類が捨てられる多くの理由
日本の衣類廃棄量は年間94万トン。ただし繊維は燃える ゴミとして捨てられてしまうことが多いため、全国、さらには東京における正確な数字を把握することは難しいといえます。
ファストファッションの台頭による消費と生産の短いサイクル。ブランド価値を維持するための安価での販売、再販を嫌う傾向など、複合的な理由によって廃棄が行われていると言われています。
衣類の輸入浸透率は97%。うち約60%は中国から、それ以外はベトナムやインドネシアといったアジア諸国からの輸入に依存しています。
世界で2番目に多い
プラスチックの消費量
日本のプラスチック製品の国内消費量は年間1,012万トン。人口ひとりあたりのプラスチック容器包装廃棄量は 35kgとなり、アメリカについで世界2位(2017)。
これまでは主に中国へ廃プラスチックを輸出して処理してきましたが、その中国が2018年から輸入を禁止。ほかのアジア諸国も輸入を制限し始めたため、日本国内の処理場に廃プラスチックが溜められている状況です。
また近年は東京湾に流れ込むマイクロプラスチックの問題も浮上。東京湾を泳ぐ魚の体内から実際にマイクロプラスチックが検出されたという報告もあがっています。いま私たちは消費を抑えながら、処理場を確保するという難しい舵取りが迫られています。
東京の廃棄物を考える
LOCAL INSIGHT
消費者が優先的に考えること
デザイナーやメーカーは常に流行や消費者のニーズに応えようと努めています。言い換えれば、消費者の選択が、デザイナーやメーカーへの信任投票とも言えるのです。
東京の消費者が優先的に考えることとして下記が挙げられます。
- 利便性
- 高品質
- 衛生的/清潔さ
利便性を求める傾向にいたっては、街のあらゆる所に存在するコンビニエンスストアの数に表れています。例えば、東京都には約8,000店舗のコンビニエンスストアがあり、そのほとんどが24時間営業です。
LOCAL INSIGHT
少ない選択肢
資源が限られていた時代に存在していた、より持続可能ライフスタイルは失われつつあります。それは特に商業化が進む都市部において顕著に表れています。
製品やシステムは、予め、廃棄された後の3R「リデュース(削減)/ リユース(再使用)/ リサイクル(再利用)」を念頭においてデザインされていません。3Rの取り組みは、「すでに廃棄物」となったものだけに適用されています。
脱プラスチック製品、量り売り、マイボトルの持ち込みなど、サステナブルな方向に向かう、新しい選択肢が消費行動に対して充分に提供されているとはいえません。廃棄物処理にかかる費用は、廃棄物削減を推進する予算と異なる枠組みで税金として確保されています。
LOCAL INSIGHT
魔法のゴミ箱
日本ではゴミ箱がなくても、きれいな街並みが見られます。公共の場でのポイ捨ては違法であり、家具や電子機器廃棄物のような大型のものを登録や支払いなしに処分することは違法です。家庭ごみと事業系廃棄物の両方について、適切な廃棄物処理に関する複雑な規則や規制が数多くあり、違反すると重い罰金が科せられることもあります。
地方自治体の廃棄物処理には、年間2兆円の国家予算が割り当てられています。一人当たり年間約15,000~20,000円の税金を支払っています。
加えて、東京の高性能な焼却炉は、二酸化炭素の排出と引き換えにプラスチックも含めて処理することができます。たとえば家庭では、分別さえすればどれだけ多くの量のプラスチックを廃棄しても問題ありません。同時にそれは、完璧なごみ処理システムが、かえってゴミに対する意識を希薄することも意味しています。
日本の文化に目を向ける
LOCAL INSIGHT
かつて循環型社会を
目指していた東京
江戸時代(1603-1868)、日本は3000万人の人口でありながら、資源の有効活用に優れたサーキュラー志向をもっていたと言われます。
当時は、活発な中古市場やリサイクル市場があり、循環型の社会が成り立っていたと言えます。素材のリサイクル、修復、再利用は広く行われて、それはさまざまな専門職 に支えられていました。例えば、灰買いは木材や廃棄物 の焼却からできた灰を収集、それは肥料、テキスタイルの染色、酒類の蒸留として使われました。
今日、東京には中古マーケットが存在しますが、ファッション、自動車、電子機器がその大半を占めています。デザイナーは新たなマーケットを生み出すことはできるのでしょうか?
LOCAL INSIGHT
自然と寄り添うデザインの精神
日本は海や山に囲まれた島国で、自然と寄り添いながら独自の文化を発展させてきました。
岐阜県にある郡上八幡は湧き水や山水を生活用水として利用する暮らしを育んできました。上流から下流に向かって飲み水から洗濯まで同じ水を何度も使用しています。その後は、農業用水に用いられ再び同じ水路に還る循環が生まれています。自然に適合した生活様式は街並みの美しさを形成し、いまでも人々を魅了しています。
現代では、人の手によって自然との調和を図ろうとした試みもあります。例えばアクロス福岡は、最新の環境技術を活かし自然の生態系を可能な限り再現しています。風土や未来を見据えた時間の流れを建築に取り入れ、今の時代にあったデザインを実践しています。
開発が進む東京においては、そのような日本独自の価値観を生かしながら、自然とどのように向き合えばよいのでしょうか?
LOCAL INSIGHT
モデュールの美学
日本建築は生活文化と密接に関わり、日本人の合理性や美意識を育ててきました。柱間と畳の寸法を対応させた空間特性は日本特有のモデュールの考え方を発展させ、現在の住宅を造るシステムにも影響を与えています。
畳の素材に使われるい草には湿度調整、空気浄化、消臭効果などの自然に備わった力があります。また、表が傷むと裏返して使うなど、手入れをすれば20年以上も使い続ける事ができます。今でいうサステイナビリティの考え方は、日本古来の手法にも存在していました。
日本文化が受継ぐ過去の知恵や精神は、現代の生活スタイルにどのように適用できるでしょうか?
デザインが東京でできること
それではデザインの力で何ができるのでしょうか?
東京の廃棄物と気候変動に関する視点や事例をパートナー団体と共同で取り上げました。しかし、これだけではありません!〈グローバル・ブリーフ(世界共通の募集要項)〉もぜひご覧ください。
デザインの可能性
自然資源の採取を抑え、より思慮深い消費のありかたを導くには?
- 過剰包装の背景には、 商品の利便性、質の追求、高い衛生基準があります。消費者や生産者に包装削減を促すには?
- 日本はひとりあたりの使い捨てプラスチック廃棄量が世界2位。脱プラスチック製品の需要を増やすには?
- 東京は単身世帯が多く、コミュニティの減少が見受けられます。 単身世帯が便利に感じ、参加したいと思えるような 共有方法はどのように推進、デザインできるでしょう?
get inspired
優しさをネットワーク化
小さなアクションでも、一人一人の行動が積み重なることで大きな効果やムーブメントを生み出す可能性があります。日本人特有の集団性は、ひとつのことを一緒になって取組むことに価値を置く側面があります。
PIRIKAはまち中で拾ったゴミのログを残すアプリです。世界中で拾われたゴミのログと総量をリアルタイムで可視化すしています。
環境に対するひとりひとりの関心や行動を他者と共有し、社会を変える仕組みをどうデザインできるでしょうか?
デザインの可能性
長く使い続けることのできる、あるいは自然のシステムの再生につながる、 製品や材料の生産とは?
- 風呂敷は衣服、物品、贈り物を梱包するなど、さまざまな用途に使われています。このように多機能で見た目にも美しい商品はどのようにデザインできるでしょうか?
- 日本には伝統工芸と呼ばれる、地域の天然資源を使用した、機能性と美しさを両立させるものがあります。 それらを見つめ直し、発展させ、新しい付加価値を生み出せるでしょうか?
- 日本にはモノを長く使うことを意識したデザインが古くからあります。 モデュールや小さな単位に分割し、修理や交換ができるような商品はどのようにすれば作れるでしょうか?
get inspired
ジップロックを使った傘のシェアリングサービス
Ziploc RECYCLE PROGRAMは、ジップロックを再利用した傘のシェアリングサービスです。旭化成ホームプロダクツ株式会社、テラサイクルジャパン合同会社、株式会社Nature Innovation Group、株式会社ビームス、が協働で実施。持続可能な環境や社会づくりを目指した傘の生産およびサービスを行っています。ジップロックを使った傘は急な雨の時に専用のスポットから借りることができ、雨が止んだ際には最寄りのスポットに返すことができます。
デザインの可能性
責任を持って廃棄、資源化するには?
- 使い捨てのパッケージや製品が、廃棄物処理場に運ばれるスピードは速く、効率も良い。廃棄物となる前に価値ある資源として使えるようにするには?
- フードバンクが存在していますが、十分に利用されているとは言えません。フードロスを減らすために、活用できるようにするには?
- 衣服、自動車、電子機器等の 中古市場が存在します。 プラスチック、建築素材を扱う中古市場はどのようにすれば作れるでしょうか?
GET INSPIRED
新しく、サステイナブルな マーケットをつくる
リビルディングセンタージャパンは、住宅解体工事で出た木材や家具、工具などを回収・選別・整理しています。 行き場を失ってしまったものを「レスキュー(引き取 り)」することで、ゴミの輸送コストを削減するだけでなく、環境への負荷も軽減しています。同時に、時代の変化とともに失われつつある文化や、愛されてきたものへの思いを継承する役割を担っています。
消費者は、住宅の建築やリフォームに必要な古材、リメイクされた家具を購入できます。また、サポーターとし て、一緒に作業に取り組むこともでき、同じ意識を持った人たちと出会う機会にもなっています。
古いものに価値を見出し、ものを大事に長く使うための循環するマーケットはどのようにデザインできるでしょ うか?
参考資料
このドキュメントを作成する際に参考にした資料です。どうぞご活用く ださい。
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現在起きている廃棄物問題とそのデータ
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サステイナブルな暮らしに向けた政策(気候変動と廃棄物問題)
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歴史と文化背景
- Everyday Things in Premodern Japan, Susan B. Hanley,1999 (English only)
- Waste; Consuming Postwar Japan, Eiko Siniawer, 2018 (English only)
- Consuming Life in Post-Bubble Japan, Katarzyna J. Cwiertka & Ewa Machotka, 2018 (English only)
選考委員
髙田 昭代
株式会社スリーシーズ 代表取締役。iF日本オフィス 代表。日本デザインアンバサダーズ ディレクター。
2007年スリーシーズを設立。マーケティングとコミュニケーションで日本と海外を繋ぐ事業に関わる。iF International Forum Design(独)日本オフィス代表、香港や中国のデザイン振興機関のコンサルタントとしてプロジェクトを統括する他、クリエイティブ人材育成や地域関連イベントに携わる。
ルー·エイミーはPwCアドバイザリーでコーポレート·サステナビリティー分野に関与し、SDGsやESG関連の目標を事業計画に組み込む支援や環境に関する非財務情報の開示支援などの経験を有する。カリフォルニア大学バークレー校にて都市計画とデザインの社会的および政治的側面について研究。「ノー・ウェイスト・チャレンジ」の東京版のリサーチャーとして、ブリーフの作成に携わる。
近藤ヒデノリ
University of Creativityサステナビリティフィールドディレクター
クリエイティブプロデューサー
株式会社博報堂 ブランドイノベーションデザイン局
地域共生の家「KYODO HOUSE」主宰
CMプランナーを経てNYU/ICP修士課程で写真と現代美術を学び、9.11を機に復職。近年は「サステナブルクリエイティビティー」を軸に企業や団体、自治体のブランディングやメディア開発、場づくりに携わる他、2020年から創造性の研究機関、UNIVERSITY of CREATIVITYで持続可能な社会のための越領域の創造性研究・社会実装を行っている。編共著に『INNOVATION DESIGN』、『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』等。2019年よりグッドデザイン賞審査員。
伊東勝
伊東勝は東京に拠点を置くSHIBAURA HOUSEの創設者。創業70年を迎える広告会社を経営しながら、そのオフィスを一般に開放。地域のコミュニティスペースとしても運営している。同時に海外のさまざまなクリエイティブな組織と協働し、文化交流のハブとしても活動。ユニークな人たちとのネットワークを築くことを楽しんでいる。
馬場亮子
福岡市出身。東北と九州・関西にルーツをもち福岡に生まれ育つ。英語通訳・翻訳や観光プロモーションに携わった後、2014年同県南部のうきは市に移住。’15年からオランダを中心とした欧州と日本の農村うきはを繋ぐ文化芸術事業を企画実施している。現在、交流・体験型プログラムのための拠点ACU設立に向けて準備中。
Sander Wassink
製品やデザインが溢れる世界では、Wassinkの機能しない作品は、外観、機能性、一時性、美しさの本質について疑問を投げかけるパラダイムと見なすことができます。 ワッシンクは、生産方法、流通チャネル、販売戦略、および代替のシステムの可能性を研究しています。 彼の作品は、プリンセスホフ陶磁器博物館やボイマンスヴァンベーニンゲン美術館など、さまざまな美術館のコレクションで開催されています。
テオ・ぺータス
オランダ王国大使館 全権公使。立教大学を卒業、1992年にオランダ王国外務省に入省。ジャカルタ、東京、ブリュッセルへの赴任を経て、セネガルにあるオランダ王国大使館の大使に就任した。そして、2019年8月、大使館全権大使として日本に戻る機会を得た。さらに広報・政治・文化部長として日本におけるオランダ政府の対外文化政策を総括している。
塚本由晴
アトリエ・ワン/東京工業大学大学院教授、博士(工学)
1965年神奈川生まれ。1987年東京工業大学工学部建築学科卒業。
1987 ~88年パリ・ベルビル建築大学。1994年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。貝島桃代と1992年にアトリエ・ワンの活動を始め、建築、公共空間、家具の設計、フィールドサーベイ、教育、美術展への出展、展覧会キュレーション、執筆など幅広い活動を展開。ふるまい学を提唱して、建築デザインのエコロジカルな転回を推進し、建築を産業の側から人々や地域に引き戻そうとしている。
SVP東京
SVP東京は、ソーシャルベンチャー支援を目的として設立された中間支援団体です。世の中に革新的な変化をもたらす可能性のある団体を選抜し、資金の提供だけでなく、パートナーと呼ばれる個々のメンバー(別に本業を持つ社会人)がチームを組み、最大2年間伴走しながら、団体のミッション実現に向けて様々な支援を行います。